リノベーションについては、単に改修するだけではなく、新たな価値を付加することで今まで以上の魅力ある建物にするといった意味合いが強い。そのためには、用途変更も念頭に検証することが必要である。
建築関係の雑誌でもリノベーションに関する特集が組まれるようになった。特にマンションなどをスケルトン状態にしたうえで、プロダクトアウトといった視点から改修したうえで再販するといった事例も増えている。リノベーションの需要が高まっている背景には、単に築年数が経過しているからということで、敬遠されてきた建物(既存ストック)の有効活用への関心が高まったということが挙げられ、年々増え続ける空き家や空室の解消も課題となっている。「新しい物にこそ価値がある」といった時代から「古くても価値があるものもある」ということが受け入れられる時代になったということもあるといえよう。また、景気の低迷がこのような傾向の引き金になったともいえる。商店街にリサイクルショップが軒を連ねるようになったことやインターネットを介してのリサイクル市場の拡大など、古いものに対しての抵抗がない世代が増えてきたということも大きな要因としても挙げられる。建物に関して言えば、商品を見て購入できるので安心だということもある。一般的に分譲住宅以外は、図面や模型でいろいろ注文して建築することになるため、最終イメージが把握できないことも多く、トラブルになることもある。その点、既存建物の場合、現物を見ながら考えられるので改修後のイメージがしやすいという点が挙げられる。更に、長年使用してきて問題がなかったという安心感もあるのかもしれない。一般的には新築より低額で希望に近い建物を取得できるということも魅力の一つだ。
既存建物に関心がもたれるようになると、改修用語としていろいろな外来語が使用され、本来の意味ではない使われ方をしているものもある。供給側が戸惑うほどである、消費者にとってはなおさらだ。ここでは、「用途変更を伴なう改修」と「用途変更が伴わない改修」の視点から説明する。リノベーションの事例が多くなると、自ずと名称の使い分けが明確になってくるものと思う。
リノベーションは、新築より難しい仕事であるともいえる。新築の場合はゼロからのスタートとなるが、リノベーションの場合は、既存のマイナス部分を克服してからのスタートというハンディがある。たとえば、耐震性が不足していれば補強工事が必要になり、現行法規に抵触する既存不適格部分があれば、それらを改修するための工事が必要な場合もある。既存不適格とは、建設当時は適法に建てられた建築物が、その後の法改正などにより現行規定に適合しなくなっているものであり、そのままの状態で違法ではないが、増築、大規模修繕、改築、用途変更を行う場合には、一定範囲の是正義務(遡及適用)が生じる。ただ、近年の既存建物の有効活用の需要が高まったこともあり、建築基準法も緩和の方向で改正されている。主な改正点は後述するとして、リノベーションで重要なことは既存の図面の確認であるが、築年数を経た建物の場合、途中で修繕工事を行っていることも多く、竣工図と現状とが大きく異なることもある。したがって、建物の現状把握が最も重要になる。人間の場合も、大手術を行う場合にいろいろな検査を行って、体質や体力などのデータを分析したうえで最も安全で適切な方法を見つけ出す。リノベーションも同様であり、その建物の欠点や特長を把握することで、建物を延命することにつながるわけである。
エバリュエーションとは、一般的に介護用語として使用されているが、建築も人間と同じに劣化する。多くの地球資源を利用して作られた建物の定期的な健康信診断を行い、健全な状態で次の世代に引き継いでいくことは、地球環境の維持という点からも重要なことである。インスペクションでは、建物の不具合箇所を探ることになる。劣化個所を探るだけでは往々にして、改修工事を前提とした劣化個所のみのリストアップになってしまいがちだが、「エバリュエーション」とは、数値の悪いところばかりを指摘するのではなく、人間の健康診断のように良いところ(価値)も見つけ出していくことである。経済学上の交換価値だけではなく、その建物の特長を見出してあげることで存在価値が評価することを目的としている。単に価値向上のための工事を行うことを目的とするのではなく、既存建物の価値を見出し、さらに価値向上を目指すことをエバリュエーションと位置付けている。
インスペクションが取引の当事者が安心して取引が行えるように物理的リスクの除去を念頭に置いた制度であるのに対し、「エバリュエーション」は建物のバリュー、価値、値打ち、有用性などを見定める概念である。
それを構成するものとして、価値の再発見(=「バリューリサーチ」)、価値の創造(=「バリューアップ」)と定義できる。そのためには、不動産プレイヤーはもっと建物を理解し、その価値を評価・提案できる知識・見識・経験値を積んでいく必要がある。
「建物が築30年の木造であれば更地価格でしかないので古屋付きにしましょう」では、工バリュエーションの考え方にはほど遠い。土地だけでなく建物への造詣も深いことで、消費者から信頼される不動産プレイヤーとなることができる。その意味では、エバリュエーションはインスペクションの発展形ともいえる。
たとえば、「この建物の基礎と主要構造躯体は非常に強固なので、あと20年から30年はもつであろう」「内壁が白色珪藻土なので調湿性能からエコ対応を強調できる」というような建築に関する素養をもとに高性能、高付加価値を見分けることができる能力がバリューサーチには必要となる。